2010年6月21日 東京藝術大学先端芸術表現科教授 伊藤俊治氏の講演 「意識のイノベーション - 未来を予見するアート」
当日のお話のサマリーを作ってみました。ただし、お話をお聞きしながら書き起こしたので、聞き違いや、勘違いがあると思いますが、ご容赦ください。
伊藤教授の長いお話を、あえてざっくりとまとめてみました。以下のお話は1時間半の持ち時間の最後の2分程度でお話されたことなので、今日のまとめではないかと思いました。
我々には、自分で気付かないセンサーが多くあり、想像以上に複雑なシステムを持っている。自分という閉鎖系システム(心というソフトウェア)を、体の感覚、情動、意識、無意識などのセンサーへのコンタクトを通じて大きく変えることが出来るのが、メディア・テクノロジーと言える。このメディア・テクノロジーによって、人間が、どこまでそれをコントロール出来るのかがアートとメディアの交差点で行われている。多分、教授がおっしゃりたいのは、すばらしい未来は健全な心をコントロールすることであり、メディア・アートはその重要なパートを担っているということだと思います。
はじめに: 未来を感知し、創造性を掘り起こすために
ジェロール・グレンという未来学者が「Future mind」という本の中で、ポスト情報化社会は“人間の意識とテクノロジーがうまく組合わされてゆく時代”。それが健全な個人の自己認識と社会をつくる基本となると言われた。
アート(ラテン語のアルス)は「芸術」と「技術」という両方の意味。その融合が分断されて、環境問題、都市問題を引き起こしているので、意識とテクノロジーを再統合しなければならない。
メディア・テクノロジーは高密度な情報化社会、高度な資本主義社会に生きる人間の心理、感覚、情動、意識への新しい研究で、アートは未来を予見する役割を果たしてきた。
アート(ラテン語のアルス)は「芸術」と「技術」という両方の意味。その融合が分断されて、環境問題、都市問題を引き起こしているので、意識とテクノロジーを再統合しなければならない。
メディア・テクノロジーは高密度な情報化社会、高度な資本主義社会に生きる人間の心理、感覚、情動、意識への新しい研究で、アートは未来を予見する役割を果たしてきた。
伊藤教授は20世紀美術の研究をされていたが、1980年末、NTTのICC(Inter Communication Center)の構想、基本設計に参画。
お話の具体的な流れは…
アートの動向を考えるポイント
1 新たな共同創造性
2 関係性の進化
3 コスモロジーの再生
4 内部情報の変容
1 新たな共同創造性
2 関係性の進化
3 コスモロジーの再生
4 内部情報の変容
これらから導き出される
未来創造へのヴィジョン
未来創造へのヴィジョン
1 新たな共同創造性
1990年代後半から2000年代に、芸術と科学を結びつける文化機関、施設が次々と生まれる。アートが一人の天才の個人作業から、共同作業を前提とするコンピュータ・インタフェースを作り上げて、他者との交流(ワークショップ、プロジェクト)によって、新たな創造性を作り上げた。コンピュータにより、共有記憶を共感化させることにより共同創造性は、より一層活性化される。新しい流れの始まりは、1990年位にベルリンで誕生したART+COMという共同研究ではないか。これは、アーティスト、映画作家、建築家、デザイナー、科学者、社会学者という色々な専門化が40人~50人位所属していて、プロジェクト毎に学際的なチームを組む方式のメディア・アーティスト集団でした。彼らの特徴は、アンチ・エキスパート・システムを敷いている。それぞれの狭いジャンルに偏向しそうな専門性をコントロールして、互いの専門領域の境界を行き来して、新しい物づくりのプロセスを電子メディアを媒介にして生み出す。
映像例: 三上晴子 / Seiko Mikami「Desire of Codes|欲望のコード」
共同創造性の例で、様々な人が関与して作られた。空間が監視カメラ、映像で生命化され、カメラから得られた個人情報がデータベース(コード)化される高密度な現代社会の様相が空間インスタレーションとして凝縮されて、提示されている。欲望のコードは今月発表されたばかりの作品で。このプロジェクトには、建築家の市川創太さん、東大の広域科学専攻で池上高志さん、アーティストのクワクボリョウタさん、山口のインターラボの人たちとか、様々な人が関与して共同で作り上げた作品。バックミン・スター・フラーという建築家が、専門化することが、なぜいけないのかということについて、生命の種の絶滅は、いきすぎた細分化、分化、専門化にもたらされる統合する能力の欠如が理由と述べている。
2 関係性の進化
言語は知覚を決定し、意識の構造を決定している。ネットワーク社会では、我々の心身を構成している言語構造は崩れ始めている。ネットワークが個人をコントロールしていて、個人がネットワークをコントロールしていると思うのは幻想である。遠く離れた個人の精神がネットワークの中に循環する新たな生命系が存在しなければならない。メディア・アートの世界でも、人工生命の問題が多く表れていたがコミュニケーション・ネットワークをどのように生命化させて、うまく循環させるかという事と深いつながりがあった。
3 コスモロジーの再生
Charlotte Davies は Osmose で、東洋の「瞑想法」や「呼吸法」を取り入れて、メディテーションでの精神状況をこの作品で生み出したかった。この作品はミクロコスモス(自分の身体)とマクロコスモス(宇宙)を全体として関与させ共振させて結び付けている。また、空間の移動により、場の質が変わってゆく(従来と異質な空間に入る)ことを現している。最近放映されたアバターは、シャー・デイビスのOsmoseの影響を受けていると思われる。
映像例: Charlotte Davies «Osmose»
我々を支えている平衡感覚、呼吸、重心移動などを利用することでデリケートな没入感覚を生み出している
体験者は世界の中の自分を気付く。これを体験するのは東洋の瞑想法と同じような考えである。このシステムでは、息を大きく吸い込むと、空間の中で舞い上がり、息を吐くと、深く沈みこんでゆく。重心を移動して自分の方向を変えたりする。自分の内部感覚をインタフェースにしている事が、この作品のポイント。
4 内部情報の変容
人とコンピュータのインタラクションの三段階
第一段階:テキスト・ベース(例えば、e-mail)。
第二段階:GUIが進化し、テレコミュニケーションと結びつき、遠隔地と簡単に結びつく(例えば、テレビ会議)。
第三段階:言語志向ではなく、3次元、4次元のように没入できる合成空間がネットワーク化される論理的世界にともに集合できる。現在は第一段階と第二段階が共生しているような段階にある。これからの第三段階は体験を共有する世界である。第三段階ではポスト・シンボリック・コミュニケーションの世界である。つまり、ネットワークが整備されると言語的な空間ではなく何千人でも没入できる同じ論理空間に集合できる。第二段階から第三段階へ向かう世界をアートであらわしたものがCAVEと呼ばれるシステム。
第一段階:テキスト・ベース(例えば、e-mail)。
第二段階:GUIが進化し、テレコミュニケーションと結びつき、遠隔地と簡単に結びつく(例えば、テレビ会議)。
第三段階:言語志向ではなく、3次元、4次元のように没入できる合成空間がネットワーク化される論理的世界にともに集合できる。現在は第一段階と第二段階が共生しているような段階にある。これからの第三段階は体験を共有する世界である。第三段階ではポスト・シンボリック・コミュニケーションの世界である。つまり、ネットワークが整備されると言語的な空間ではなく何千人でも没入できる同じ論理空間に集合できる。第二段階から第三段階へ向かう世界をアートであらわしたものがCAVEと呼ばれるシステム。
映像例: CAVE
共同で製作された第二段階から第三段階へ向かう世界をアートで表した作品。当時では高度な3Dメガネをつけて等身大の人形をインタフェースとして人間に眠っている本能の活性化や原記憶を呼び覚ます人間の身体と記憶術をテーマにしてそれを美学的、哲学的に表現しようとした作品。
未来創造へのヴィジョン
ヒューマン・インタフェースの研究者であるウイリアム・ブリッケンは「心理学や精神分析学は、新しいメディア空間にとっての物理学である」と言った。つまり、物理学は物理的な領域を支配する法則を明らかにするもので、心理学は人間の心の領域を支配する法則を明らかにしようとするものです。メディア・アートの世界で重要なのは人間の心や精神のメカニズムを知ることである。自分という閉鎖系のシステム(心というソフトウェア)を、体の感覚、情動、意識、無意識などへのコンタクトを通じて大きく変えることが出来るのが、メディア・テクノロジーと言える。
人間の心や精神のメカニズムを知るという学問や体系を持っていないというのが現状。コンピュータサイエンスも、このようなことをベースにする必要があると思うが、なかなかそれが出来ていないというのが現実である。
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