2010年12月30日木曜日

Visionary Institute - 2010 Seminar 第9回 佐治晴夫氏「創成のイノベーション 未来に継承するリベラルアーツ」 参加報告

Visionary Institute - 2010 Seminar 第9回 佐治晴夫氏「創成のイノベーション 未来に継承するリベラルアーツ」を受講してまいりました。今年4月から始まったこのセミナーも、いよいよ最終回です。今回はクリスマスセミナー。株式会社エムシープランニング代表の薄羽美江さんによるとクリスマスセミナーとはイギリスで行われた年末に本物の科学者から科学の話を聞くというもので、今回はそれにふさわしい佐治晴夫氏をお招きしてのセミナーでした。
全体の感想としては、先生は学生さんに科学を分かりやすく説明するための引き出しをいっぱい持っていて、幾らでも話が尽きない方だと感じました。

・宇宙と音楽
まずは先生を知るためにアメリカの天文学者、SF作家であるカール・セーガン博士の本を映画化した「コンタクト」の映像から始まりました。佐治教授とセーガン博士は1977年、ともにNASAのボイジャー計画に携わりました。この本でカール・セーガン博士から宇宙とのコンタクト方法を相談されて、数学と音楽を一緒にしてコミュニケーションに利用することを提案し、それが映画に採用されました。

・失敗は何度でもしたほうが良い
最初のエピソードは糸川先生とのお話でした。佐治先生は初めの頃は東大の物性研究所に勤めていて、その向かい側に糸川先生の勤めている東京大学生産技術研究所がありました。そこで佐治先生は糸川先生に会う機会があり、そのような時に糸川先生の言われたことで印象に残っていることがあり、それを紹介されました。「人間は1回失敗しただけではダメだよ。何度でも失敗してもいいんだよ」、つまり「ご飯を炊くときに米の量を計るのを間違えて、水の量を計るのを間違えたときに、おいしいご飯が炊けることが有るではないか」、「だから一回失敗したからとしょげていてはダメで、大いに失敗しなさい」とおっしゃられたそうで、それが糸川イズムでした。その糸川イズムから「はやぶさ」が生まれましたが、その話は前回の的川先生がされました。

・クリスマス講義
この講義はクリスマス講義と位置づけてお話をされました。そもそもクリスマス講義は1825年にイギリスの王立教会でマイケル・ファラデーが青少年のために最先端の科学を理解してもらうための科学実験講座で、途中戦争で中断しましたが、今では約183回になるのではないのでしょうか。佐治先生もこの講義を聴かれて、ご自分も日本でクリスマス講義を始められそうです。それから数えて今日のこの講義は126回目あたりということでした。

・「はじまり」とは何か?
先生は元々数学の出身で物理に移り、理論天文学の仕事につながってゆきました。東大に勤めていた頃には予算が少なかったため、日中は松下幸之助さんから声のかかった松下電器の研究所で働き、夜5時15分以降は東大で働くと言う生活をしていたそうです。その頃に考え始めたのが物事の根源的なこと、つまり、始まりでした。本当の始まりとは原因もなく始まらなければならないというところから宇宙の始まりに関心を持ってきました。

・ゆらぎの実用化
松下電器ではその宇宙の始まりにかかわる根源的な「ゆらぎ」の研究をしていて、研究の成果として6時間VTR磁気ヘッド、宇宙の創生の理屈をそのまま使っているヘッドフォン、ゆらぎの扇風機、ゆらぎの風呂などを商品化してゆきました。

リベラルアーツとは?
これまで仕事をしてきた中で必要と考えてきたのがリベラルアーツで、普通は教養と訳されますが、中世ヨーロッパでは、職業教育とは別に人格形成を目的とした教養基礎科目のことを言います。その中には数学、音楽、天文が含まれております。リベラルアーツとは既存の伝統や風習から大きく心を開放して新しい思想のパラダイムを目指すことです。

以下、私の感想。
私はというと高校、大学では数学、英語と技術は得意でしたが、美術、音楽は全く不得手でした。そうか!だから中途半端なエンジニアになったのかと佐治先生のお話を聞いて合点がゆきました。問題解決や新しいものを創り出すには感性が重要ですが、私にはリベラルアーツが欠けていますね。そんな負い目があるので、出張の時には時間を見つけては美術館や博物館に足を運びます。ボストン美術館、ルーブル美術館、大英博物館、ゴッホ美術館、スペインの小さな美術館、イタリアの美術館などなど。

まどみちおさんの詩(地球の用事)
まどみちおさんは玉川大学の真昼の天文台に行かれて6時間も観測室におられて「ああこれがひかりですね」と言われたそうです。そのまどみちおさんの詩に地球の用事というのがあります。
ビーズつなぎの 手からおちた 赤いビーズ 指先から ひざへ ひざから ざぶとんへ
ざぶとんから たたみへ ひくいほうへ ひくいほうへと かけていって
たたみのすみの こげあなに はいってとまった
いわれた とおりの 道を ちゃんと かけて いわれた とおりの ところへ ちゃんと 来ました
と いうように 今 あんしんした顔で 光っている ああ こんなに 小さな ちびちゃんを
ここまで 走らせた 地球の 用事は なんだったのだろう

これがリベラルアーツです。

・谷川 俊太郎さんとの対談
言葉はあいまいなものです。しかし、谷川俊太郎さんとの対談で、それほどあいまいでも無いなということが分かりました。佐治先生が「宇宙って膨張しているんです」と言うと谷川さんは「そうですか。宇宙は膨らんでいるんですか。だから皆不安なのですね」と言われました。佐治先生が「地球と月は引き合っているんです」というと谷川さんは「万有引力というのは孤独な力なんですね」と言われました。佐治先生が「宇宙はひずんでいる」というと谷川さんは「そうですか、宇宙は歪んでいるんですか。だから人々は求め合うのですね」と言われました。このように、言葉はあいまいであるがゆえに、文学や詩があるわけで、どちらが良いとも悪いとも言えないものです。数学を解くにはすべて理詰めだけではなく、感性が無いと解けません。世の中の真実は何かを追究してゆくシステムがリベラルアーツです

・能における幽玄とゼロの美しさ
能の世界は1つの能面の中に2つの反対の世界が入っている(顔の左と右)ので、数学のゼロと似ています。数学のy=1/xという分数関数のグラフを書くとxがプラスの方からゼロに近づくとyは大きくなり無限大になる、マイナスの方からゼロに近づくとマイナスの無限大になります。

・なぜまばたきするのか?
なぜまばたきするのかをつめてゆくと、結論は、「人間の祖先は魚だった」なのですが、そこに至るまでの過程を説明されていました。小学生に自ら分からせるために「さあ立って。今から1分間まばたきしちゃダメだよ。まばたきした子は座るんだよ」と言って、まばたきしないことがどれほど大変か、そしてそれはどうしてかを考えさせることでこの結論に持ってゆくわけです。このように深いからくりを感覚的に捉えてゆくのもリベラルアーツ、難しいことを易しく伝えるのもリベラルアーツです。

・なぜバッハか
1977年9月5日NASAの太陽系外惑星探査機ボイジャー1号と2号にバッハのプレリュードとフーガを積もうと言ったのが佐治教授でした。なぜバッハか?それはバッハの音楽がいかに数学的に出来ているかということからです。そういうこともリベラルアーツの延長線上にあるわけです

・月周回衛星「かぐや(SELENE)」が撮影した月越しに見えた地球

この映像は、月周回衛星「かぐや」がその役目を終えて、地球からの指示で月に激突して死ぬ時に、母である地球をとらえた映像で、その1時間40分後に月に激突しました。時は2009年6月11日。空気の無い月面から空気と水の星、地球が見えてくる。「この時のあの青い玉の上に私たちは確実にいたわけです。そういう思いであの水玉を見れるかどうか。それでかなり人生が変わると思いますね。」と佐治先生は言われました。

・自分の顔は自分では見れない!?
鏡で見ている顔は左右反対になっているので、本当の自分の顔は見ることができません。つまり、地球のことを一番知っていると自分では思っていても、実は何も分かっていないということです。

・皆さんへの質問
皆さんの中で「あしたも同じ自分でいられるか心配しながらご就寝された方はおられますか?」
皆さんの体は60兆の細胞で出来ています。その中のDNAのうちの1%は寝てからおきるまでの半日で置き換わっています。細胞は死んでいるからですね。つまり、ものとしての今日の自分は昨日の自分ではありません。つまり、自分を自分にしているのは自分と周りとの関係性で成り立っていると考えるのが一番妥当だと言われました。

以下、私の感想。
ということは、約1ヵ月半で自分が物質としては100%別人になるという事ですね。こころは、過去の自分の行動をパターン化して覚えていて、今日も昨日と同じ行動をした方が安心、安全だと考えるからなのか、又はそのパターンを固定観念として自分はこういう人間だと思いこんでしまっているのか、なかなか変われないのかもしれません。結果を恐れずに、今までとちょっと違う行動をするとうまくゆく事があります。それを続けると、気付いた時にはこころも別人になるのでしょうね。また、自分と言うのは他人との関係性で成り立つということが重要ですから、素晴らしい人に巡り合うのも重要ですね。でも、待ってていてもそういう機会はなかなか訪れないので、自分から機会を作る事でしょうね。今日の佐治先生のお話を聞けたというのも私にとっては大切な財産です。

・月が有っても無くても私たちの生活は変わらないか?
大昔に地球に小惑星が衝突して地球の軸が傾いて、四季ができました。衝突の衝撃で飛び散った岩石が固まったものが月です。月の引力があって地球の自転にブレーキをかけています。この力がないと地球の自転は1日8時間になってしまいます。

・この音は何の音?
カエルの鳴き声のような音ですが、宇宙からやってくる電波を音にしたもので、太陽から吹いてくる太陽風を音にしたものです。風とは目に見えない空気の小さい分子が動くだけではありません。太陽から目に見えない粒粒がたくさんくるのだったら風と言っていいのではないでしょうか?今の学校教育では、風は空気の移動と決め付けてしまう子供を作ってしまうが、これではいけないのではないかと佐治先生は憂いておられます。

・宇宙飛行士が月に行ったら自分の体重は軽くなったと感じるでしょうか?重くなったと感じるのでしょうか?
文部科学省の正解は月は重力が地球の1/6だから、軽くなったと感じるというものです。しかし、小学生の子供の中には宇宙にいるときには無重力状態で、月に着いたら重力があるので、重くなったと感じると言いました。このような考え方が大事です。向井千秋さんが宇宙から帰ってきたときに言ったのは「ティッシュペーパーがこんなに重いとは思わなかったなかった」ということで、それを聞いていた子供たちはこのように答えるのではないでしょうか。

・もし月が無かったらどうなったでしょうか?
もし、月がなかったら地球の自転の速さが3倍になります。そうすると地球上の風速は時速300Kmです。そうするとものすごい音がして音楽を聞くどころではない。だから、もし月が無かったら音楽はなかったですね。このように科学的な裏づけを持ちながら自由な発想をするような教育が大事ですね。

・ジェット機が飛ぶ理屈と水洗トイレの理屈は同じだよね!
この話をしたら東京大学に数十人入るという高校生はキョトンとしていた。こういう人が東大に入って政治家になったらこの国はどうなっちゃうのかな?ジェット機が飛ぶのは翼の上側と下側では風のスピードが違うからです。上側では長い距離を流れるので、スピードが速くなって圧力が小さくなり浮力が出てくるわけです。水洗トイレは下に下水が静かに流れていて圧力が下がってているので水洗トイレは流れてゆきます。ベルヌーイの法則を簡単に説明するとこのようになります。

・人間の奇妙さを実にうまい具合に言っているのが宮沢賢治です
「春と修羅」の第一集の序で、「わたくしという現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です。あらゆる透明な幽霊の複合体、風景やみんなといっしょにせわしくせわしく明滅しながら いかにもたしかに ともりつづける因果交流電燈のひとつの青い照明です」という文章を紹介されました。これはリベラルアーツをやっていないと分かりませんね。われわれは1つの人格と思ったらおお間違いです。Aさんと会っているときの人格とB君と会っているときの人格、歩いているときの人格と車に乗っているときの人格は微妙に違っています。ですから人は色々な人格の集まりであります。また、私たちの命には限りがありますが、しかしそのときに灯された光は消えないでしょう。

・ことりさんと一本の木の話(新美南吉の小説)
ことりと一本の木は仲良しでした。そしてことりは冬が来るので南の国に帰りました。次の年に戻ってきた時にはその木は切られていて株が残っていました。木は切られてマッチの軸になりました。ことりはマッチを探して一軒の家に行きました。その家の子がつけたマッチの軸で燃やしたランプの火は残っています。つまり、次から次へと受け渡されたものは永遠につづくだろう。その中のリレーに過ぎないということを金子みすゞさんをバチカンでパウロ二世に説明した後にしたそうです。この詩を読んでやはりそこまで思い浮かばないような国語の授業は国語の授業ではないと言われました

・リベラルアーツというものの考えかた
子供のための物語であろうが、大人のための物語であろうが、数学、哲学であろうがそれぞれのこころというものには一貫した共通項があり、それを感じて、自分のものにしてゆくのがリベラルアーツの方法だと思います。言葉を音に変えるとあいまいな物が明確になってゆきます。しかも、それぞれの言語を超えた普遍的言語になります。

・言いたかったこと
「人間って本当に不思議ですよね」。ということを言いたかったのです。つぎにでてくるのは、「人間っていったい何なのか」。これは生き物の進化の途中から見ることができます。

・人間とは
京都大学の霊長類研究所の先生が言うには、人間とは相手の気持ちの分かるチンパンジーです。チンパンジーは相手の気持ちは分かりません。次にこころとは何かについてお話します。

・この音は何の音?
太陽から吹いてくる風の音だと仮定すると、太陽が爆発したときのフレアの電波の音です。電波の原因は、実験的な事実としてこの音を分析して分かることは、今から137億年前に確かに1粒の光から宇宙が生まれてきたことを表している事です。しかも、それは原因のない始まりだったことが分かるそうです。これから太陽は冬眠の状況になりますから、地球が氷河期になることが想定されています。

・核酸と言う物質
地球では水素、酸素、星で作られた炭素、窒素、鉄などが出来上がってゆきます。これから核酸が出来てきます。この核酸が神経のネットワークの中で分子集団に変化が起きると記憶になります。記憶ができるということは、現在と過去を分けることができます。それはつまり、現在と未来を分けることが出来ます。そうすると時間と言う概念が出来上がってきます。その時間と言う概念のおおもとになるのが、こころというものです。そして、自分の未来はどうなるのだろうか?と考えるわけです。

・こころはどうして出来てきたか?
人間が立ちあがるようになったから大きい脳を持つようになり、こころを持つことが出来るようになりました。しかし、立ち上がることによって骨盤が狭くなったので、子供を必要な時間だけおなかに入れておくことができずに早く産まなければならなくなりませんでした(人間は未熟児で産まれてきている)。だから人間は学校で教育を受けなければなりません。人間だけ産まれて来たときには自分ひとりでは生きられない状態です。人間は一人では生きられない。だから集団を作るようになるわけです。その集団を侵略するものがあればその集団を維持するために自分の命と引き換えに戦争をします。だから、人間の世界から戦争はなくなりません。戦争はやめようとして止められるものではありません。では、どうしたら止められるのか。それは人類の進化の途中で何ゆえにあなたは戦うのか、そういうことを科学の立場から理解することによって、そこを出発点としてどうしたら良いのかということが出てくるでしょう。それがリベラルアーツです

以下、私の感想。
大陸では隣り合う国同士が資源や地の利などから領土を広げようと戦争をしてきました。戦争から自国を守ると言う大義で権力者が戦争を利用したり、政治を利用したり、宗教を利用してきました。宗教には他の宗教を受け入れるということはあまりありません。博愛の宗教、助け合う宗教、好戦的な宗教など色々あります。このような宗教の創始者や権力者が、もし、スペースシャトルに乗って宇宙から地球を見ることが出来ていたならば、自説にこだわらず、広い心で思想が形成されたのではないかと想像いたしました。この講義の後で薄羽さんが中心となって30人程の人たちで先生を囲む懇親会を行いましたが、参加者の1人の京さんが、10年ほど前に考えたこととして、サミットを宇宙で開いたら有意義なものになるだろうということを披露して頂きましたが、私も同感です。

・人間らしさとは
人間とは分かち合うことが出来るものです。その辺りの事を絶妙に言っているのが宗教です。特にキリスト教などはまさにそのとおりです。「理解されるより、理解することを求めさせてください。愛されるより、愛することを求めさせてください。それは与えることによって、与えられるからです。許すことによって、許されるからです」。人間は環境に適用するために耐えることが出来ます。ところが、環境の変わり方が早すぎるために適応できないので、耐えることが出来なくなっているだけの話です。そこに気がつく必要があります。

・事業をするためのマネージメント
佐治先生は松下にいたときに1兆円を売り上げました。そのうち、扇風機で500億円売り上げました。そのときのマネージメントですが、ビジョンをいかに持つか。次にビジョンを理念に変える。理念に変えたら組織がどうあらねばということが決まる。組織が決まればタイムスケジュールが決まってきます

以上が、本日の佐治晴夫先生のお話で、持ち時間の20:30を過ぎて21:00過ぎまでお話して頂きました。その後、場所を51階の六本木ヒルズクラブに移動して、30人ほどで先生を囲む懇親会があり、参加させて頂きましたが、先生のお話は尽きませんでした。先生は夜通し話しても良いとおっしゃって頂き、予定の23:00を過ぎても楽しいひと時があっという間のようでした。

Visionary Institute - 2010の索引ページに戻る



2010年12月23日木曜日

Visionary Institute 2010 Seminar 第9回 佐治晴夫氏「創成のイノベーション 未来に継承するリベラルアーツ」 参加報告


Visionary Institute 2010 Seminar第9回 「創成のイノベーション 未来に継承するリベラルアーツ」を受講してまいりました。今年4月から始まったこのセミナーも、いよいよ最終回です。今回はクリスマスセミナー。株式会社エムシープランニング代表の薄羽美江さんによるとクリスマスセミナーとはイギリスで行われた年末に本物の科学者から科学の話を聞くというもので、今回はそれにふさわしい佐治晴夫氏をお招きしてのセミナーでした。
全体の感想としては、先生は学生さんに科学を分かりやすく説明するための引き出しをいっぱい持っていて、幾らでも話が尽きない方だと感じました。
・宇宙と音楽
まずは先生を知るためにアメリカの天文学者、SF作家であるカール・セーガン博士の本を映画化した「コンタクト」の映像から始まりました。佐治教授とセーガン博士は1977年、ともにNASAのボイジャー計画に携わりました。この本でカール・セーガン博士から宇宙とのコンタクト方法を相談されて、数学と音楽を一緒にしてコミュニケーションに利用することを提案し、それが映画に採用されました。
・失敗は何度でもしたほうが良い
最初のエピソードは糸川先生とのお話でした。佐治先生は初めの頃は東大の物性研究所に勤めていて、その向かい側に糸川先生の勤めている東京大学生産技術研究所がありました。そこで佐治先生は糸川先生に会う機会があり、そのような時に糸川先生の言われたことで印象に残っていることがあり、それを紹介されました。「人間は1回失敗しただけではダメだよ。何度でも失敗してもいいんだよ」、つまり「ご飯を炊くときに米の量を計るのを間違えて、水の量を計るのを間違えたときに、おいしいご飯が炊けることが有るではないか」、「だから一回失敗したからとしょげていてはダメで、大いに失敗しなさい」とおっしゃられたそうで、それが糸川イズムでした。その糸川イズムから「はやぶさ」が生まれましたが、その話は前回の的川先生がされました。
・クリスマス講義
この講義はクリスマス講義と位置づけてお話をされました。そもそもクリスマス講義は1825年にイギリスの王立教会でマイケル・ファラデーが青少年のために最先端の科学を理解してもらうための科学実験講座で、途中戦争で中断しましたが、今では約183回になるのではないのでしょうか。佐治先生もこの講義を聴かれて、ご自分も日本でクリスマス講義を始められそうです。それから数えて今日のこの講義は126回目あたりということでした。
・「はじまり」とは何か?
先生は元々数学の出身で物理に移り、理論天文学の仕事につながってゆきました。東大に勤めていた頃には予算が少なかったため、日中は松下幸之助さんから声のかかった松下電器の研究所で働き、夜5時15分以降は東大で働くと言う生活をしていたそうです。その頃に考え始めたのが物事の根源的なこと、つまり、始まりでした。本当の始まりとは原因もなく始まらなければならないというところから宇宙の始まりに関心を持ってきました。
・ゆらぎの実用化
松下電器ではその宇宙の始まりにかかわる根源的な「ゆらぎ」の研究をしていて、研究の成果として6時間VTR磁気ヘッド、宇宙の創生の理屈をそのまま使っているヘッドフォン、ゆらぎの扇風機、ゆらぎの風呂などを商品化してゆきました。
リベラルアーツとは?
これまで仕事をしてきた中で必要と考えてきたのがリベラルアーツで、普通は教養と訳されますが、中世ヨーロッパでは、職業教育とは別に人格形成を目的とした教養基礎科目のことを言います。その中には数学、音楽、天文学が含まれております。リベラルアーツとは既存の伝統や風習から大きく心を開放して新しい思想のパラダイムを目指すことです。
以下、私の感想。
私はというと高校、大学では数学、英語と技術は得意でしたが、美術、音楽は全く不得手でした。そうか!だから中途半端なエンジニアになったのかと佐治先生のお話を聞いて合点がゆきました。問題解決や新しいものを創り出すには感性が重要ですが、私にはリベラルアーツが欠けていますね。そんな負い目があるので、出張の時には時間を見つけては美術館や博物館に足を運びます。ボストン美術館、ルーブル美術館、大英博物館、ゴッホ美術館、スペインの小さな美術館、イタリアの美術館などなど。
まどみちおさんの詩(地球の用事)
まどみちおさんは玉川大学の真昼の天文台に行かれて6時間も観測室におられて「ああ、これがひかりですね」と言われたそうです。そのまどみちおさんの詩に地球の用事というのがあります。
ビーズつなぎの 手からおちた 赤いビーズ 指先から ひざへ ひざから ざぶとんへ
ざぶとんから たたみへ ひくいほうへ ひくいほうへと かけていって
たたみのすみの こげあなに はいってとまった
いわれた とおりの 道を ちゃんと かけて いわれた とおりの ところへ ちゃんと 来ました
と いうように 今 あんしんした顔で 光っている ああ こんなに 小さな ちびちゃんを
ここまで 走らせた 地球の 用事は なんだったのだろう
これがリベラルアーツです。
以下、私の感想。
佐治先生の発案で玉川大学の屋上に「昼間の星」を見ると言う天文台を作られました。そのこころは、見えないと思い込んでいる真昼の星を見るという非日常体験をすることにより、思い込みと言うものを考えさせることにあるということでした。私はこのVisionary Instituteに参加して薄羽さんより、この天文台のスタッフをされている潮木さんを紹介されました。この天文台は毎週木曜日に公開されているので、私は2010年7月1日に潮木さんを尋ねて行きこの体験をさせていただきました。話は変わりますが、2011年1月1日のNHKのテレビで山で淡水(好適環境水)でマグロを育てている岡山理科大学の放送を見ました。ここでも、「魚は海水で生きる」というのと、「マグロは海で育つ」というのが思い込みだということを思い知らされました。
・谷川 俊太郎さんとの対談
言葉はあいまいなものです。しかし、谷川俊太郎さんとの対談で、それほどあいまいでも無いなということが分かりました。佐治先生が「宇宙って膨張しているんです」と言うと谷川さんは「そうですか。宇宙は膨らんでいるんですか。だから皆不安なのですね」と言われました。佐治先生が「地球と月は引き合っているんです」というと谷川さんは「万有引力というのは孤独な力なんですね」と言われました。佐治先生が「宇宙はひずんでいる」というと谷川さんは「そうですか、宇宙は歪んでいるんですか。だから人々は求め合うのですね」と言われました。このように、言葉はあいまいであるがゆえに、文学や詩があるわけで、どちらが良いとも悪いとも言えないものです。数学を解くにはすべて理詰めだけではなく、感性が無いと解けません。世の中の真実とは何かを追究してゆくシステムがリベラルアーツです
・能における幽玄とゼロの美しさ
能の世界は1つの能面の中に2つの反対の世界(顔の左と右)が入っているので、数学のゼロと似ています。数学のy=1/xという分数関数のグラフを書くとxがプラスの方からゼロに近づくとyは大きくなり無限大になる、マイナスの方からゼロに近づくとマイナスの無限大になります。
・なぜまばたきするのか?
なぜまばたきするのかをつめてゆくと、結論は、「人間の祖先は魚だった」なのですが、そこに至るまでの過程を説明されていました。小学生に自ら分からせるために「さあ立って。今から1分間まばたきしちゃダメだよ。まばたきした子は座るんだよ」と言って、まばたきしないことがどれほど大変か、そしてそれはどうしてかを考えさせることでこの結論に持ってゆくわけです。このように深いからくりを感覚的に捉えてゆくのもリベラルアーツ、難しいことを易しく伝えるのもリベラルアーツです。
・なぜバッハか
1977年9月5日NASAの太陽系外惑星探査機ボイジャー1号と2号にバッハのプレリュードとフーガを積もうと言ったのが佐治教授でした。なぜバッハか?それはバッハの音楽がいかに数学的に出来ているかということからです。そういうこともリベラルアーツの延長線上にあるわけです
・月周回衛星「かぐや(SELENE)」が撮影した月越しに見えた地球
この映像は、月周回衛星「かぐや」がその役目を終えて、地球からの指示で月に激突して死ぬ時に、母である地球をとらえた映像で、その1時間40分後に月に激突しました。時は2009年6月11日。空気の無い月面から空気と水の星、地球が見えてくる。「この時のあの青い玉の上に私たちは確実にいたわけです。そういう思いであの水玉を見れるかどうか。それでかなり人生が変わると思いますね。」と佐治先生は言われました。
・自分の顔は自分では見れない!?
鏡で見ている顔は左右反対になっているので、本当の自分の顔は見ることができません。つまり、地球のことを一番知っていると自分では思っていても、実は何も分かっていないということです。
・皆さんへの質問
皆さんの中で「あしたも同じ自分でいられるか心配しながらご就寝された方はおられますか?」
皆さんの体は60兆の細胞で出来ています。その中のDNAのうちの1%は寝てからおきるまでの半日で置き換わっています。細胞は死んでいくからですね。つまり、ものとしての今日の自分は昨日の自分ではありません。つまり、自分を自分にしているのは自分と周りとの関係性で成り立っていると考えるのが一番妥当だと言われました。
以下、私の感想。
ということは、約1ヵ月半で自分が物質としては100%別人になるという事ですね。こころは、過去の自分の行動をパターン化して記憶していて、今日も昨日と同じ行動をした方が安心、安全だと考えるからなのか、又はそのパターンを固定観念として自分はこういう人間だと思いこんでしまっているのか、なかなか変われないのかもしれません。結果を恐れずに、今までとちょっと違う行動をするとうまくゆく事があります。それを続けると、気付いた時にはこころも別人になるのでしょうね。また、自分と言うのは他人との関係性で成り立つということが重要ですから、素晴らしい人に巡り合うのも重要ですね。でも、待ってていてもそういう機会はなかなか訪れないので、自分から機会を作る事でしょうね。今日の佐治先生のお話を聞けたというのも私にとっては大切な財産です。
・月が有っても無くても私たちの生活は変わらないか?
大昔に地球に小惑星が衝突して地球の軸が傾いて、四季ができました。衝突の衝撃で飛び散った岩石が固まったものが月です。月の引力があって地球の自転にブレーキをかけています。この力がないと地球の自転は1日8時間になってしまいます。
・この音は何の音?
カエルの鳴き声のような音ですが、宇宙からやってくる電波を音にしたもので、太陽から吹いてくる太陽風を音にしたものです。風とは目に見えない空気の小さい分子が動くだけではありません。太陽から目に見えない粒粒がたくさんくるのだったら風と言っていいのではないでしょうか?今の学校教育では、風は空気の移動と決め付けてしまう子供を作ってしまうが、これではいけないのではないかと佐治先生は憂いておられます。
・宇宙飛行士が月に行ったら自分の体重は軽くなったと感じるでしょうか?重くなったと感じるのでしょうか?
文部科学省の正解は月は重力が地球の1/6だから、軽くなったと感じるというものです。しかし、小学生の子供の中には宇宙にいるときには無重力状態で、月に着いたら重力があるので、重くなったと感じると言いました。このような考え方が大事です。向井千秋さんが宇宙から帰ってきたときに言ったのは「ティッシュペーパーがね、こんなに重いとは思わなかったなかったわ」ということで、それを聞いていた子供たちはこのように答えるのではないでしょうか。
・もし月が無かったらどうなったでしょうか?
もし、月がなかったら地球の自転の速さが3倍になります。そうすると地球上の風速は時速300Kmです。そうするとものすごい音がして音楽を聞くどころではない。だから、もし月が無かったら音楽はなかったですね。このように科学的な裏づけを持ちながら自由な発想をするような教育が大事ですね。
・ジェット機が飛ぶ理屈と水洗トイレの理屈は同じだよね!
この話をしたら東京大学に数十人入るという高校の生徒さんはキョトンとしていた。こういう人が東大に入って政治家になったらこの国はどうなっちゃうのかな?ジェット機が飛ぶのは翼の上側と下側では風のスピードが違うからです。上側では長い距離を流れるので、スピードが速くなって圧力が小さくなり浮力が出てくるわけです。水洗トイレは下に下水が静かに流れていて圧力が下がってているので水洗トイレは流れてゆきます。ベルヌーイの法則を簡単に説明するとこのようになります。
・人間の奇妙さを実にうまい具合に言っているのが宮沢賢治です
「春と修羅」の第一集の序で、「わたくしという現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です。あらゆる透明な幽霊の複合体、風景やみんなといっしょにせわしくせわしく明滅しながら いかにもたしかに ともりつづける因果交流電燈のひとつの青い照明です」という文章を紹介されました。これはリベラルアーツをやっていないと分かりませんね。われわれは1つの人格と思ったらおお間違いです。Aさんと会っているときの人格とB君と会っているときの人格、歩いているときの人格と車に乗っているときの人格は微妙に違っています。ですから人は色々な人格の集まりであります。また、私たちの命には限りがありますが、しかしそのときに灯された光は消えないでしょう。
・ことりさんと一本の木の話(新美南吉の小説)
ことりと一本の木は仲良しでした。そしてことりは冬が来るので南の国に帰りました。次の年に戻ってきた時にはその木は切られていて株だけが残っていました。木は切られてマッチの軸になっていました。ことりはマッチを探して一軒の家に行きました。その家の子がつけたマッチの軸で燃やしたランプの火は残っています。つまり、次から次へと受け渡されたものは永遠につづくだろう。その中のリレーに過ぎないということを金子みすゞさんをバチカンでパウロ二世に説明した後にしたそうです。この詩を読んでやはりそこまで思い浮かばないような国語の授業は国語の授業ではないと言われました
・リベラルアーツというものの考えかた
子供のための物語であろうが、大人のための物語であろうが、数学、哲学であろうがそれぞれのこころというものには一貫した共通項があり、それを感じて、自分のものにしてゆくのがリベラルアーツの方法だと思います。言葉を音に変えるとあいまいな物が明確になってゆきます。しかも、それぞれの言語を超えた普遍的言語になります。
・言いたかったこと
「人間って本当に不思議ですよね」。ということを言いたかったのです。つぎにでてくるのは、「人間っていったい何なのか」。これは生き物の進化の途中から見ることができます。
・人間とは
京都大学の霊長類研究所の先生が言うには、人間とは相手の気持ちの分かるチンパンジーです。チンパンジーは相手の気持ちは分かりません。次にこころとは何かについてお話します。

・この音は何の音?
太陽から吹いてくる風の音だと仮定すると、太陽が爆発したときのフレアの電波の音です。電波の原因は、実験的な事実としてこの音を分析して分かることは、今から137億年前に確かに1粒の光から宇宙が生まれてきたことを表している事です。しかも、それは原因のない始まりだったことが分かるそうです。これから太陽は冬眠の状況になりますから、地球が氷河期になることが想定されています。
・核酸と言う物質
地球では水素、酸素、星で作られた炭素、窒素、鉄などが出来上がってゆきます。これから核酸が出来てきます。この核酸が神経のネットワークの中で分子集団に変化が起きると記憶になります。記憶ができるということは、現在と過去を分けることができます。それはつまり、現在と未来を分けることが出来ます。そうすると時間と言う概念が出来上がってきます。その時間と言う概念のおおもとになるのが、こころというものです。そして、自分の未来はどうなるのだろうか?と考えるわけです。
・こころはどうして出来てきたか?
人間が立ちあがるようになったから大きい脳を持つようになり、こころを持つことが出来るようになりました。しかし、立ち上がることによって骨盤が狭くなったので、子供を必要な時間だけおなかに入れておくことができずに早く産まなければならなくなりませんでした(人間は未熟児で産まれてきている)。だから人間は学校で教育を受けなければなりません。人間だけ産まれて来たときには自分ひとりでは生きられない状態です。人間は一人では生きられない。だから集団を作るようになるわけです。その集団を侵略するものがあればその集団を維持するために自分の命と引き換えに戦争をします。だから、人間の世界から戦争はなくなりません。戦争はやめようとして止められるものではありません。では、どうしたら止められるのか。それは人類の進化の途中で何ゆえにあなたは戦うのか、そういうことを科学の立場から理解することによって、そこを出発点としてどうしたら良いのかということが出てくるでしょう。それがリベラルアーツです
以下、私の感想。
大陸では隣り合う国同士が資源や地の利などから領土を広げようと戦争をしてきました。戦争から自国を守ると言う大義で権力者が戦争を利用したり、政治を利用したり、宗教を利用してきました。宗教には他の宗教を受け入れるということはあまりありません。博愛の宗教、助け合う宗教、好戦的な宗教など色々あります。このような宗教の創始者や権力者が、もし、スペースシャトルに乗って宇宙から地球を見ることが出来ていたならば、自説にこだわらず、広い心で思想が形成されたのではないかと想像いたしました。この講義の後で薄羽さんが中心となって30人程の人たちで先生を囲む懇親会を行いましたが、参加者の1人の京さんが、10年ほど前に考えたこととして、サミットを宇宙で開いたら有意義なものになるだろうということを披露して頂きましたが、私も同感です。
・人間らしさとは
人間とは分かち合うことが出来るものです。その辺りの事を絶妙に言っているのが宗教です。特にキリスト教などはまさにそのとおりです。「理解されるより、理解することを求めさせてください。愛されるより、愛することを求めさせてください。それは与えることによって、与えられるからです。赦すことによって、赦されるからです」。人間は環境に適用するために耐えることが出来ます。ところが、環境の変わり方が早すぎるために適応できないので、耐えることが出来なくなっているだけの話です。そこに気がつく必要があります。
・事業をするためのマネージメント
佐治先生は松下にいたときに1兆円を売り上げました。そのうち、扇風機で500億円売り上げました。そのときのマネージメントですが、ビジョンをいかに持つか。次にビジョンを理念に変える。理念に変えたら組織がどうあらねばということが決まる。組織が決まればタイムスケジュールが決まってきます
・真昼の星
先生の本日のクリスマスギフトとして北海道の陸別にある銀河の森天文台で115cmの望遠鏡でとってきた青空の中での真昼の星を撮影されたものを見せて頂きました。先生は金子みすゞさんの「星とたんぽぽ」という詩を紹介されました。
青いお空の底ふかく、 海の小石のそのやうに、 夜が来るまで沈んでる、 昼のお星は目に見えぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。
常時昼の星を観測できるのは銀河の森天文台と旭川の天文台です。そして毎週木曜日に観測できるのが玉川大学の天文台です。

以上が、本日の佐治晴夫先生のお話で、持ち時間の20:30を過ぎて21:00過ぎまでお話して頂きました。
その後、場所を51階の六本木ヒルズクラブに移動して、30人ほどで先生を囲む懇親会があり、参加させて頂きましたが、先生のお話は尽きませんでした。先生は夜通し話しても良いとおっしゃって頂き、予定の23:00を過ぎても楽しいひと時があっという間のようでした。
・推薦書籍のご紹介

Visionary Institute - 2010の索引ページに戻る

2010年12月4日土曜日

Visionary Institute 2010 World Cafe 第9回 「成功の法則」とはどのようなことですか?参加報告


Visionary Institute 2010 World Cafeの第9回は、的川泰宣氏の”飛翔のイノベーション”未来を開発する宇宙探索というセミナーを受けて、私たちにとって現在、未来での「成功の法則」とはどのようなことですか?そしてそれを実現するためには「何」が大事ですか?について、株式会社エムシープランニング代表の薄羽美江さんのファシリテートにより対話を行いました。
寺沢さんによる的川泰宣氏のセミナーの報告
毎回、その回の題材となるセミナーのサマリーを薄羽さんがされているのですが、今回はメンバーにJAXAで宇宙線が人体に及ぼす影響を研究している寺沢さんがいて、寺沢さんが今回の説明を薄羽さんに申し出てくれました。寺沢さんは研究の傍ら、日本科学未来館などで来館者へのセミナーをやられているようなので、人に教えると言うことが身についておられるように感じました。寺沢さんの発言は最近で印象に残っているのは、第7回では母なるものとは”積分”である。父なるものとは”微分”である。第8回では未来に大事な能力として、コミュニケーション、強調、自己愛、喜怒哀楽、慮るなどの意見がでるなか、あえて反対意見を言って問題点を洗い出してゆき、結果として高めあってゆく。第9回である今回は成功の反対は失敗ではない。何もしないことだ。などでした。
解説は「はやぶさ」が宇宙から地球へ帰還してオーストラリアの上空で燃え尽きる写真から始まり、続いて、ロケットで打ち上げられたときから、色々の故障をしてゆく経過を説明され、ついには生命線の通信がとだえてしまい、さすがに、今まで色々な故障を繰り返してきてもなお、飛びつつけている「はやぶさ」を信じてきたチームも絶望になりながらも、通信を続けていった様子が説明されました。何とか通信が戻ったのですが、通常の通信が出来ない状況で、「はやぶさ」の5年前に打ち上げられた火星探査衛星「のぞみ」での1ビット通信(2進数の世界で1桁は1か0、つまり、"yes"か"no"。例えば息子にどこにいる?とは聞けないので、今、学校にいる?答えは"no"を延々と繰り返して場所を絞ってゆくとても辛抱のいるやりとりです)と言うノウハウが生かされることとなり、「はやぶさ」の制御が可能となった。地球に帰還した「はやぶさ」が燃え尽きる前に送ってきた宇宙から見た地球の映像は霧がかかったような画像だったが、その画像の状態が「はやぶさ」の痛々しい姿を物語っていてすばらしかった。
それにしても、的川泰宣氏の「はやぶさ」のまるで人間模様のようなお話は、薄羽さんも言っておられましたが、会場では多くの方が感動し、目頭が熱くなる人が見られました。私も、父が亡くなったときには涙もでなかったのですが、このようなお話にはつい目頭が熱くなっていました。全て印象深いお話ですが、女性には特にあたかも子供のようなカプセルを育てて、母親は燃え尽きてゆくというところに感動したようです。私は「はやぶさ」を送り出す直前に、4つのエンジンに何か障害があったときのために、それぞれのエンジンの使えるところを組み合わせて使えるようにしていたことと、3つあった姿勢制御用の機器が全て故障した状況で機転を利かして推進用のエンジンを姿勢制御にも使った技術者のおかげで姿勢制御が可能となり、その前に不完全ながら回復した通信とそれを使った地上のエンジニアの習得した制御技術、これら全てが重なって地球に帰還できた、このチームワークに感動しました。ここには多くの困難とそれを乗り越えた大きな成功があったわけです。
人間模様といえば、燃え尽きる「はやぶさ君」を思い、5歳の少女が手紙を書き、それをお父さんがJAXAへ送ったそうですが、その手紙が紹介されておりました。以下、「あすかははやぶさ君が大好きです。でも、はやぶさ君がもうじき消えてなくなるという話を聞きました。でも、あすかははやぶさ君が大好きなので、一生、はやぶさ君のことを思い続けます」。
そして的川先生はお話の最後で以下のようにまとめられました。
幼い共感と感動が未来を作る
小中学校は高校の準備だけではない。「命を輝かせる最も大切なチャンス」を身に付ける時期である。
・毎日毎日が人生でもっとも大切な時期である可能性が高い。
・着眼大局 着手小局
そして、最後に「適度な貧乏」。これが「はやぶさ」が成功した原動力だったようです。
私も当日の的川先生のお話をお聞きしてその感想をこのブログの別の回で記録しておりますので、ここをクリックしてご欄頂ければと思います。
今回の対話は、この「はやぶさ」プロジェクトには教訓とするべきものが多く有ったので、ここでの多くの失敗と大きな成功を頭に入れつつ、成功するには何が大切かを話し合いました。


各グループ発表のまとめ
薄羽さんがこのように磁石で貼り付けるホワイトボードに、各グループのまとめを聞きながら書き留めるということを始めたのはここ2-3回前からなのですが、多分、皆さんそう思うと思いますが、「字がきれい」、「瞬間的にキーワードをつかんで簡潔にまとめるのは、すばらしい」、「漢字を一杯知っていてすぐ書ける(対話の中で、皆さん異口同音に漢字を忘れてしまったのでひらがなで書きますけどいいですか?というような話があちこちでされています)」。WorldCafeではテーブルクロスにその場で書きながら対話を深めてゆき、テーブルを移動して色々な意見と出会うというのが、第一義的に重要ですが、その場で振り返って全員で共有しあうというのが更に大事だと思います。また、わたしのように何日も日を置かずに皆さんが見れるようにまとめを作って振り返れるのも大切だと思います。また、毎回参加された方から薄羽さんにメールで送られた各グループでの感想なども貴重で、これが皆さんで共有できたらいいのにと思っていましたが、参加者がログインして見れるWikiサイトを曽根さんが運用しておられるので、総合的に有機的に結びついた良い企画だと思います。


各グループのまとめを図式化してみました


Aチーム発表
かおるさんの発表
成功には何が必要かを考える上で、成功と失敗を対比して考えてみました。つまり、
成功への希望 と 失敗への恐れ
いけないこと: 失敗は恐れてはいけない
なぜいけないか: 失敗を恐れてチャレンジしないと失敗の副産物をえることができない
何が必要か: 自信が必要
何が重要か:リスクをとるマインドやチャレンジが大事
自信を得るには: 成功するにはやり続ける不屈の意思
やり続けるには: 小さな成功の積み重ねにより、成功の確度を高める
Aチームは、京さん(男性)、国際ホスピタリティ研究センターの青柳さん(男性)などがいる強力チームですね。



Aチームのテーブルクロスを図式化してみました


Bチーム発表
寺沢さんの発表
「成功」の反対は失敗ではなく、「何もしないこと」だと考えている。
失敗は成功のもと。失敗を積み重ねることにより成功に近づける。
成功の定義は人まちまちで、自分で決めればよいこと。
だから、自分が楽しいことを続ければよい。
新しいことを始めると必ず失敗するので、あきらめないことが重要。
自分の本業以外のことをすると、自分の本業が新鮮な目で見られる。好奇心が大事。
人の話を聞いていると常に出るキーワードが好奇心ということなので、やはり好奇心が大事だと思います。
小さい成功を積み重ねてゆくことが大事。
Bチームには寺沢さん(男性)、清水さん(女性)などがいる思いの強いチームですね。初めての方(女性)がお一人おられたようです。


Bチームのテーブルクロスを図式化してみました


Cチーム発表
曽根さんの発表
チームとしての成功 と 個人個人の成功
個人個人なら自分が好きなことに熱中すればよいのかもしれないが、チームとしては、チームとして熱中できるものをだれかが持ち込まなければならない。チームの大きな目標をきちっととらえて、そこに向かってゆく中でこまかく方向転換をして成功を目指すようにする。
CチームにはVisionary Instituteの仕掛け人の一人である曽根さん(男性)、久しぶりの伊藤さん(男性)などのチームです。


Cチームのテーブルクロスを図式化してみました


Dチーム発表
片山さんの発表
一番大切なこと: あきらめないこと。これがないと成功に導かない。
あきらめないと言うことは: 「光」があることです。
これを実現するのになにが必要か: ポジティブでいなければならない。つまり、前向きでいること。
前向きでいるためには: 楽観的でなければならない。
楽観的だからといって中途半端ではなく、本気で、命がけで頑張らなければならない。本気で生き抜くことが大切。
そして、皆で「夢」を持つて頑張ることが大切。
片山さんの発表が終わると、京さんから「何かわからなかったけど、元気になりましたね。」とか、女性から「すごい素敵だった」とか、「皆に元気を与える」という声があがりました。励まされるような発表ありがとうございました。
私たちDチームは、何回か参加されている片山さん(女性)、初めの頃から参加されている玉川大学の天文台を守っている潮木さん(女性)、Facebookですばらしい場所や気に入った情報などを画像で提供している石橋さん(男性)、そして小城でした。潮木さんによると、12月21日(火)の16:30ころから東の空では皆既月食がみられるそうなので思い出したら、この時間には仕事の手を休めて東の空を見上げてみてください。


Dチームのテーブルクロスを図式化してみました


Eチーム発表
ワールド・カフェが初めての方が二人いて、この方から5秒で結論が出たと言って、言われたことが最後まで対話の柱になりました。
やりたいこと好きなことを見つける
そして、やりたい事をやり続ける信念と力を持つことが大切です。
やりたいことをみつけるのは難しいですね。それには好奇心が必要。
日本人はなかなかチャレンジをしなくなっている。チャレンジをするためには、チャレンジするための教育は重要だ。
好奇心から成功を重ねて自己愛、自己肯定/他者肯定をしてやり続けるというサイクルが回ってゆくことが重要。
Eチームは高野さん、曽田さん、藤原さんなど、他の方のお名前は覚えておりませんが、初めての方が二人おられたチームです。


Eチームのテーブルクロスを図式化してみました


薄羽さんからの総括
薄羽さんが的川先生の講演で心に残った2つの言葉について話されました。1つは講演の最後のほうにおっしゃった言葉に「小学校5年生の時が大事だったんではないかな」。その頃に本当に好きなことに出会って、諦めない不屈の精神をもつようになることが大事であるということでした。私の5年生の頃は毎週、戸塚から秋葉原に出かけていって、電子パーツ屋さんで小さな皿にダイオード1つ、抵抗1つ、コンデンサー1つ等とユニバーサル基板など必要な部品を買い集めて、よく火傷をしながらハンダごてで電子製作をしていたことを思い出しました。的川先生は、今では衛星などのプロジェクトを手がける科学者ですが、子供の頃には、つぶしがきくからと、父親から法律家を目指しなさいと言われたそうですが、それに反発して工学を目指したそうです。
2つめは、プロジェクトは一生に一度チャンスが巡るかどうかである。参加している技術者は、このプロジェクト自体は7年前に始まったわけですが、そのプロジェクトに入る前の大学院生のころから続けてきたことが、このプロジェクトに結集したわけで、その強い思いがあったからこそ、4つのエンジンを裏でつないでいて、それぞれをパーツとして組み合わせるということをしたわけです。それ自身は、長年の研究の成果としてすばらしい設計でしたが、はやぶさを衛星に載せる少し前の設計変更をしてはいけない時期に、ぎりぎりまで方式を考え抜いて出した結論が、やっぱり、4つのエンジンをつないでおこうということでした。それでメーカーの方と相談して、線でつなぐと重さに影響が出るので、ダイオードでつなぐという方法でそれを実現したようです。ルールでは、してはいけない事をしたわけですが、それを聞いた川口淳一郎プロジェクトマネージャは、それを責めることなく、そして見事に日本の宝、誇りが誕生したわけです。プロジェクトのメンバー一人一人の責任感とそれを信頼してまとめているリーダーだからこそ実現出来た結果でした。
ぜひ皆さんも小学校5年生の頃を思い出し、しかし、一方では与えられている今の場と言うものの中では、一人一人は何にチャレンジし、チームとしてはなにを目標にして熱中しているかをはっきりさせることが大事です。日本人がチャレンジすることを見失いつつある今、チャレンジする心を持たせる教育という事が大事なのではないか。見守ると言う大局的な心が大事ではないか。


今日のサプライズは、学校の先生をされている清水さんが少し早いクリスマスプレゼントと言うことで、トゥインクル、つまり2つの星の形に焼いたクッキーを2つずつラッピングして参加者の方々のために持ってきてくれました。ずっと眺めていたかったのですが、誘惑に負けて食べてしまいました。おいしかったです。ありがとうございます。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



次回のセミナーは最終回で「私たちはどこからきて、どこにいくのだろう」という非常に哲学的な題で、12月最後のクリスマスレクチャーです。講師は宇宙創生の揺らぎについては第一人者の佐治晴夫さんにお話頂きます

・推薦書籍のご紹介


visionary Institute - 2010の索引ページに戻る